企業と個人のためのリスキリング戦略とは?DX時代のキャリア形成と効果的な進め方
最終更新日:2025/09/21
前回は、「リスキリングとは?その重要性と習得すべきスキルを徹底解説」という内容で、リスキリングの定義や必要性、学ぶべきスキルの全体像について整理しました。
今回は、企業が人材戦略としてどのようにリスキリングを活用しているか、そしてDX時代に個人がどのようにキャリアを築くべきかを具体的に解説します。
さらに、リスキリングを成功に導く、学び方の工夫にも踏み込みます。
「学びたいけど、どう始めればいい?」「会社で制度化するには?」
そんな疑問を抱える方にとって、次のステップへのヒントが詰まった内容です。
なお、今回は第2部となりますのでよろしくお願いします。
企業の人材戦略としてのリスキリング
結論からいうと、リスキリングは人材不足と競争力強化を同時に解決する最重要戦略です。
少子高齢化、人手不足、グローバル競争。
中小企業から大手企業まで、人が足りないという課題はすでに深刻です。
そんな中で注目されているのが、今いる人材のスキルを進化させて、新たな戦力へ変えるという考え方です。
これがまさにリスキリングの本質であり、企業にとっては、攻めと守りを両立させる戦略となっています。
なぜ企業はリスキリングを急ぐのか?
従来のように、足りないスキルは新しい人を採用すればいいという考え方は、もはや通用しなくなりつつあります。
理由は主に3つです。
採用競争が激化し、IT人材は特に獲得競争が激しく、中小企業では採用が難しくなってきている。
教育コストの効率化が求められており、その場合、既存社員の育成の方が早く、企業文化にも適合しやすい。
社会構造や経済市況の変化への即応性を高めるため、組織内で柔軟に人を動かさないといけないケースがでてきている。
リスキリングをうまく活用できれば、これらの理由に柔軟に対応することができ、社員を辞めさせずに、組織を変えることが可能になります。
リスキリングの導入で得られる企業のメリット
企業がリスキリングを導入することで、次のようなメリットを得ることができます。
新規事業や部署間移動に対応できる人材を増加させることができ、組織の柔軟性強化に繋がる。
社員自身が成長している実感を得ることができ、社員のモチベーションに直結、いわゆるエンゲージメント向上に繋がる。
スキルを評価される環境を形成でき、社員の定着率を高め、結果として離職率の低下に繋げることができる。
即戦力人材を外部から雇う必要がなくなり、採用コストの削減に繋げることができる。
これらのメリットのほかにも、スキルの見える化を通じて、社内の人材配置の最適化や人事評価の精度向上にも繋げることができます。
実践する企業が増えているということ
最近では、国内の企業でリスキリングの取り組みが進んでおり、大手企業では、IT未経験社員向けのプログラミング研修を導入やリスキリングポイント制を導入し、自主学習を促進している例があります。
また、中小企業では人材開発に関する補助金や助成金などを活用し、社内でのIT教育制度を整備しています。
中小企業でも、外部研修やオンライン学習サービスを活用しながら「まずは少人数で試す」というアプローチが主流になりつつあります。
リスキリングは、人材が足りないという課題を、今いる人を育てるという前向きな戦略に転換する手段です。
これからの企業経営においては、採用よりも育成が競争力の源泉になります。
その視点こそが、リスキリングを導入する企業にとっての最大のメリットなのです。
DX時代における個人のキャリア形成
変化の激しい時代には、自分のキャリアは自分でデザインするという姿勢が必要不可欠です。
デジタル・トランスフォーメーションの進展により、産業構造も働き方も大きく変わりました。
そんな中で、会社や社会にキャリアを委ねるのではなく、自分自身が学び、選び、動くことが、これまで以上に求められています。
リスキリングは、まさに主体的キャリア形成を後押しする武器なのです。
安定した職業は存在しない時代に突入しているということ
かつては、資格を取れば一生安泰といった考えが通用していた時代もありましたが、今は状況が大きく異なります。
どんな業種でも、デジタル化やAIによる自動化の影響を受けています。
たとえば、会計や事務の仕事はAIによって大部分が自動化されつつあります。
医療や教育の分野ですら、リモート診療やオンライン学習の導入で変化しています。
つまり、今ある仕事が将来もあるとは限らない、それが現実です。
キャリアの多様化と自由な選択肢
リスキリングを進めることで、次のようなキャリアの可能性が広がります。
本業と副業を組み合わせたパラレルキャリアへの挑戦。
業種や職種の垣根を越えた転職、再就職。
独立や起業への準備。
重要なのは、ひとつの会社・職種に縛られない働き方を選べる状態にするということで、スキルさえあれば、人生の選択肢は格段に広がります。
リスキリングは未来に投資するという考え
今の仕事で使わないスキルを学ぶのは、一見、無駄に思えるかもしれません。
でも、リスキリングは、今の自分に必要なことではなく、これからの自分に必要なことを学ぶ行為です。
今すぐ役立たないとしても、未来のチャンスに備えることで、将来的なキャリアの安定や成長につながります。
・変化を恐れず、学ぶ習慣を身につける
リスキリングの本質は、新しいことに挑戦し続ける姿勢にあります。
知識やスキルは、学びさえすれば誰でも手に入れられる時代になっています。
大切なのは、学ぶことをやめないことです。
これまで文系だった人がITスキルを学び、未経験からエンジニアになった例も少なくありません。
年齢や経験に関係なく、学ぶ意欲さえあればチャンスは誰にでもあります。
DX時代のキャリアは、企業が与えるものではなく、自分で築くもの。リスキリングは、選べる人生を手に入れるための最強の自己投資です。
そしてそれは、特別な人だけでなく、あなたにも確実にできることなのです。
強みを活かし、壁を乗り越える世代別のリスキリング
DX時代を生き抜くためのリスキリングは、すべてのビジネスパーソンにとって重要なテーマですが、その最適なアプローチは年代によって異なります。
ここでは、若手・中堅層、中核層、そしてベテラン層に分け、それぞれの世代が持つ強みを活かし、陥りがちな課題を乗り越えるためのコツと注意点を紹介します。
可能性を広げるための戦略的スキル獲得する「20代〜30代の若手・中堅層」
デジタルネイティブ世代である若手・中堅層は、新しいテクノロジーに対する心理的なハードルが低く、吸収力が高いのが最大の強みです。
「20代〜30代の若手・中堅層」のコツ
この世代のリスキリングは、将来のキャリアの選択肢を広げるための「投資」と捉えるのが効果的です。
特定の業務スキルだけでなく、AI、データサイエンス、UI/UXデザインといった、今後幅広い分野で応用可能なポータブルスキルを基礎から学ぶのがおすすめです。
また、同世代のコミュニティやSNSを活用し、共に学ぶ仲間を見つけることで、モチベーションを維持しやすくなります。
「20代〜30代の若手・中堅層」の注意点
注意すべきは、単なる「スキルのつまみ食い」で終わってしまうことです。
話題のスキルに次々と手を出すものの、どれも中途半端ではキャリアに繋がりません。
自身の興味関心と、3〜5年後のキャリアプランを照らし合わせ、「なぜこのスキルを学ぶのか」という目的を明確にしてから学習を始めましょう。
経験とスキルの掛け合わせで価値を最大化する「40代の中核層」
管理職や現場のリーダーとして豊富な経験と人脈を持つこの世代は、リスキリングによって自身の価値を飛躍的に高められるポテンシャルを秘めています。
「40代の中核層」のコツ
最大のコツは、これまで培ってきた専門知識や経験と、新しいデジタルスキルを「掛け合わせる」ことです。
例えば、長年の経験を持つ営業のプロがデータ分析スキルを身につければ、経験と勘にデータを組み合わせた、説得力の高い営業戦略を立案できます。
全くのゼロから始めるのではなく、「今の自分の強みを、どうすればデジタル技術で拡張できるか?」という視点が成功の鍵です。
「40代の中核層」の注意点
この世代が直面しがちな壁は、「今さら新しいことを学ぶのは…」という心理的な抵抗感や、多忙な業務を理由に学びを後回しにしてしまうことです。
「アンラーニング(学習棄却)」、つまり一度これまでの成功体験や古い知識をリセットし、謙虚に学ぶ姿勢が不可欠です。
短時間で学べるオンライン講座などを活用し、学習を習慣化する工夫も求められます。
経験を次世代に繋ぐための新たな武器を手にする「50代以降のベテラン層」
長年のキャリアで培われた深い知見と判断力、広い視野は、他の世代にはない圧倒的な強みです。
この世代のリスキリングは、プレイヤーとして第一線で戦うためだけではありません。
「50代以降のベテラン層」のコツ
自らがプログラミングやデータ分析の専門家になることだけがリスキリングではありません。
むしろ、DXプロジェクト全体を俯瞰し、若手と経営層の「橋渡し」役を担うための知識を身につけることが重要です。
例えば、AIやクラウドがビジネスにどのような影響を与えるかを体系的に学び、自社の課題解決にどう活かせるかを提言できる能力は、まさにこの世代だからこそ発揮できる価値です。
「50代以降のベテラン層」の注意点
プライドが邪魔をして、若手社員に教えを請うことに抵抗を感じてしまうケースが見られます。
しかし、知らないことを素直に認め、世代を超えて学び合う姿勢が、結果的に自身の市場価値を高め、尊敬を集めることに繋がります。
キャリアの「逃げ切り」を考えるのではなく、これまでの経験を新しい知識と統合し、次世代に継承していくという「攻め」の姿勢を持つこと。
それが、この世代のリスキリングを成功に導くマインドセットです。
どの世代にも共通して言えるのは、リスキリングが単なるスキル習得ではなく、キャリアを主体的に築くための「意識改革」でもあるということです。
ご自身の世代ならではの強みを活かし、課題を乗り越える視点を持つことが、DX時代における効果的な一歩となるでしょう。
効果的なリスキリングの進め方
リスキリングは目的を明確にし、自分に合った学び方で習慣化することが成功の鍵です。
「よし、リスキリングを始めよう!」と思い立っても、継続できずに途中で挫折する人が多いのも事実です。
リスキリングを効果的に進めるためには、戦略的に学ぶという姿勢が大切です。
ここでは、実践的なステップを4つに分けて紹介します。
効果的にリスキリングを進めるステップその1
「ゴールを明確にする」
まず大事なのは、なぜリスキリングしたいのかをはっきりさせることです。
目的が曖昧なままだと、モチベーションは長続きしません。
リスキリングをする目的として、
・転職してデジタルマーケターになりたい。
・社内で異動してDX推進部署に入りたい。
・副業でWeb制作を請け負いたい。
といった目的があげられるのではないでしょうか?
さらに、「3か月でHTMLを学ぶ」、「月に2冊専門書を読む」など、具体的な目標を立てることで学習の進捗も管理しやすくなります。
効果的にリスキリングを進めるステップその2
「スキルギャップを見える化する」
今の自分が持っているスキルと、目指す姿に必要なスキルとのギャップを把握することも重要です。
これを明確にすることで、何をどれだけ学ぶ必要があるのかが可視化されます。
おすすめの方法として、
・ストレングスファインダーなどの自己診断ツールを活用する。
・キャリアカウンセラーやメンターと相談する。
・業界求人のスキル要件をリサーチしてリスト化する。
といった方法があります。
効果的にリスキリングを進めるステップその3
「自分に合った学習スタイルを選ぶ」
学びのスタイルにはいろいろあります。
自分のライフスタイルや性格に合った方法を選ぶことで、無理なく続けられます。
自分のライフスタイルや性格に合った方法として、
・自宅で好きな時間に学習でき、かつ、実践型が多いオンライン講座。
・理論を深く学べ、通勤時間の活用にもできる書籍や参考書。
・モチベーション維持しやすく、仲間もできる通学型スクール。
・業務に直結し、会社から支援を受けることでコストも抑えられる社内研修やOJT。
などがあげられます。
学ぶ内容と目的によっては、複数を組み合わせるハイブリッド型も効果的です。
効果的にリスキリングを進めるステップその4
「習慣化とフィードバックの仕組みづくり」
継続こそが最強のリスキリング戦略です。
習慣化するには、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。
さらに、定期的な振り返りを入れることで、モチベーションを維持しやすくなります。
モチベーションを維持するコツとして、
・手帳やスマホのアプリなどを活用して学習記録をつける。
・週に1回、今週の学びを振り返る時間を設ける。
・仲間と学習進捗を共有し、お互いに刺激を与える。
などがあります。
リスキリングは、思いつきで始めても続きません。
「何のために学ぶのか」を明確にし、「どうやって続けるか」を仕組みにすることが、成功の秘訣です。
そして、完璧でなくても、まず始めることが、最初の一歩なのです。
今回のまとめ
リスキリングは、企業にとって、人材不足解消と競争力強化の両輪の戦略として捉えることができ、個人にとっては、選べる人生のための最強の自己投資となります。
リスキリングの成功の鍵は、目的設定・ギャップ分析・学習の習慣化です。
また、この変革の時代において、リスキリングは単に流行りのスキルを学ぶことではありません。
それは、自分自身のキャリアを主体的に再設計するための、極めて戦略的な営みです。
若手、中堅、ベテランといった世代ごとの現在地を理解し、自身の経験という揺るぎない土台の上に、どのような新しいスキルを「掛け合わせる」のか。
この問いこそが、無数にある選択肢の中から、あなたにとって本当に価値ある学びを見つけ出すための羅針盤となります。
しかし、スキルや知識以上に重要なのは、それらを習得する以前の「マインドセット」かもしれません。
過去の成功体験に固執せず、変化を恐れず、常に学び続ける「学習者」であり続けること。
未知の領域に一歩踏み出す好奇心と、時にはこれまでの常識を捨てる「アンラーニング」の勇気。
これらを備えて初めて、羅針盤は正しく未来を指し示します。
リスキリングは、変化の波に「追いつく」ための守りの一手ではありません。
むしろ、**自らの手でキャリアの舵を取り、未来の可能性を切り拓くための「攻めの一手」**です。
今回の内容が、あなたが次の一歩を踏み出すための、小さなきっかけとなれば幸いです。
最後にご案内です。
次回、「職種別リスキリング事例と未来予測:AI時代を生き抜くためのスキルとは」
最終回となる次回は、職業別にリスキリングの実例を紹介しながら、現場でどのように活用されているかをリアルに掘り下げていきます。
さらに、今後社会がどう変わり、それに対して私たちはどう備えるべきか、未来への予測も交えてお届けします。
「他の人はどうリスキリングしているの?」「これからの社会で何を学べばいい?」
そんな方は、ぜひ最終回までご覧ください!