インフラエンジニアとは?IT社会を支える重要な仕事の全貌
最終更新日:2025/09/20
インフラエンジニアは現代社会を支える縁の下の力持ち
私たちが毎日当たり前のように利用している、インターネット、メール、SNS、オンラインショッピング。
これらの便利なサービスが、なぜ安定して動き続けているのか、考えたことはありますか。
その裏側には、ITシステムの基盤、つまり「インフラ」を24時間365日、休むことなく支え続けている専門家たちがいます。
それが「インフラエンジニア」です。
家を建てる時、まず土地を整備し、電気や水道、ガスといったライフラインを整える基礎工事が必要ですよね。
ITの世界におけるインフラエンジニアは、まさにこの「基礎工事」を担当する役割を担っています。
彼らがいなければ、どんなに素晴らしいアプリケーションやウェブサイトも、ただの設計図に過ぎません。
普段は表舞台に出ることは少ないかもしれませんが、私たちのデジタル社会が成り立っているのは、彼らの確かな技術力と責任感のおかげなのです。
今回は、そんな「縁の下の力持ち」であるインフラエンジニアという仕事について、その具体的な仕事内容から、求められるスキル、年収、そして未来のキャリアを紹介していきます。
インフラエンジニアの具体的な仕事内容
インフラエンジニアの仕事は、ITインフラのライフサイクル全体に関わる、非常に多岐にわたるものです。
大きく分けると、「設計」、「構築」、「運用・保守」という3つのフェーズに分類することができます。
ITインフラの青写真を描く「設計」
システム開発の最も上流に位置するのが「設計」のフェーズです。
ここでは、顧客や自社のサービスが求める要件、例えば「ウェブサイトに1日100万回のアクセスがあっても耐えられるようにしたい」「絶対に情報漏洩が起きない安全なシステムを作りたい」といった要望をヒアリングします。
そして、その要件を実現するために、サーバー、ネットワーク関連のどのような機器を、どれくらいの性能で、何台用意し、それらをどのように接続するのか、といったシステムの全体像を決定します。
性能はもちろん、コスト、セキュリティ、将来的な拡張性など、様々な要素を考慮しながら最適な構成を考える、まさにITインフラの「青写真」を描く重要な仕事です。
設計図を形にする「構築」
設計が完了したら、次はその設計図に基づいて実際にインフラを組み上げていく「構築」のフェーズに移ります。
具体的には、サーバーやネットワーク機器を物理的に設置し、ケーブルで接続するラッキングや配線などの作業から始まります。
その後、OS(オペレーティングシステム)やWebサーバーソフトやデータベースソフトなどのミドルウェアをインストールし、設計書通りの設定を行っていきます。
近年では、クラウドサービスを利用することが増え、物理的な作業は少なくなりましたが、クラウド上で仮想的なサーバーやネットワークを構築するスキルが求められます。
設計という頭脳労働から一転、実際に手を動かしてシステムを形にしていく、達成感の大きい仕事です。
システムの安定稼働を守る「運用・保守」
インフラは、一度構築して終わりではありません。
サービスが続く限り、そのインフラが安定して動き続けるように見守り、維持していく「運用・保守」が不可欠です。
24時間365日、システムの稼働状況を監視し、CPU使用率の上昇やメモリ不足といったパフォーマンスの低下、あるいはサーバーダウンなどの障害が発生した際には、迅速に原因を特定し、復旧作業にあたります。
また、外部からのサイバー攻撃を防ぐためのセキュリティ対策や、OSのアップデート、データのバックアップなども重要な業務です。
利用者が安心してサービスを使い続けられるように、システムの「当たり前」を守り続ける、責任の大きな仕事と言えるでしょう。
インフラエンジニアの種類と専門分野
インフラエンジニアと一括りに言っても、その専門領域は多岐にわたります。
担当する技術領域によって、いくつかの職種に分かれており、それぞれが専門性を発揮しながら協力して一つのITインフラを支えています。
「サーバーエンジニア」という職種
サーバーの設計、構築、運用・保守を専門とするエンジニアです。
Webサーバーやメールサーバー、データベースサーバーなど、用途に応じたサーバーの選定から、OSのインストール、各種設定、パフォーマンス監視、障害対応までを担当します。
物理的なサーバーだけでなく、VMwareなどの仮想化技術を用いて1台の物理サーバー上に複数の仮想サーバーを構築することも多く、ハードウェアからOS、仮想化技術まで幅広い知識が求められます。
「ネットワークエンジニア」という職種
コンピューター同士を繋ぐネットワークの設計、構築、運用・保守を専門とするエンジニアです。
ルーターやスイッチといったネットワーク機器を駆使して、快適で安全な通信環境を構築します。
「インターネットが遅い」「社内システムに繋がらない」といったトラブルが発生した際には、原因を切り分け、迅速な復旧を目指します。
企業内のLANから、データセンター間を結ぶ大規模なWANまで、ITシステムの「血管」とも言える重要な部分を担っています。
「クラウドエンジニア」という職種
近年、急速に需要が高まっているのが、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)といったクラウドサービスの活用を専門とするクラウドエンジニアです。
自社で物理的な機器を持たず、クラウド上にサーバーやネットワーク、データベースといったインフラを設計・構築します。
物理的な制約が少なく、柔軟かつ迅速にシステムを構築できるのが特徴で、各クラウドサービスが提供する多様な機能を深く理解し、それらを最適に組み合わせるスキルが求められます。
「セキュリティエンジニア」という職種
ITインフラをサイバー攻撃の脅威から守ることを専門とするエンジニアです。
不正アクセスやウイルス感染、情報漏洩などを防ぐために、システムの脆弱性を診断し、ファイアウォールや不正侵入検知システムと呼ばれるIDSなどのセキュリティ製品を導入・運用します。
万が一セキュリティインシデントが発生した際には、その影響範囲を特定し、被害を最小限に食い止めるための対応も行います。
企業の信頼を守る、非常に重要な役割です。
インフラエンジニアに求められるスキルセット
インフラエンジニアとして活躍するためには、技術的な専門知識である「テクニカルスキル」と、業務を円滑に進めるための「ヒューマンスキル」の両方が必要です。
テクニカルスキル
ITインフラを構成する様々な要素に関する、幅広く深い知識が求められます。
サーバー・OSに関する知識
企業のシステムで広く使われているLinuxやWindows ServerといったOSの知識は必須です。
インストールや各種設定はもちろん、コマンドラインでの操作やパフォーマンスチューニングのスキルも重要になります。
ネットワークに関する知識
TCP/IPという通信の基本的な仕組みの理解は欠かせません。
その上で、ルーターやスイッチの仕組み、DNSやHTTPといったプロトコル(通信上のルール)に関する知識も必要です。
クラウドに関する知識
現代のインフラエンジニアにとって、クラウドの知識はもはや必須と言えます。
AWS、Azure、GCPといった主要なクラウドプラットフォームの基本的なサービスを理解し、実際にサーバーなどを構築できるスキルが求められます。
セキュリティに関する知識
安全なシステムを構築・運用するために、セキュリティの知識は全てのインフラエンジニアに共通して必要です。
ファイアウォールの仕組みや暗号化技術、近年のサイバー攻撃の手法などについて理解しておくことが重要です。
プログラミングスキル
近年では、インフラの構築や設定作業を自動化する動きが加速しています。
PythonやRubyといったプログラミング言語や、Bashなどのシェルスクリプトを使って、手作業で行っていた定型業務を自動化するスキルは、自身の業務効率を上げるだけでなく、市場価値を高める上でも非常に有効です。
ヒューマンスキル
技術力と同じくらい、あるいはそれ以上に重要になるのが、人としての能力です。
コミュニケーション能力
インフラエンジニアの仕事は、一人で完結することはほとんどありません。
顧客の要望を正確に聞き出す、チームのメンバーと協力して作業を進める、システムに詳しくない人に分かりやすく説明するなど、様々な場面で円滑なコミュニケーションが求められます。
論理的思考能力と問題解決能力
システム障害などのトラブルが発生した際、「何が原因で」「どこに問題があるのか」を冷静に分析し、解決策を導き出す能力が不可欠です。
複雑に絡み合った事象の中から、筋道を立てて本質的な原因を突き止める論理的思考力が試されます。
継続的に学習する意欲
IT業界の技術革新のスピードは非常に速く、昨日まで最新だった技術が、今日にはもう古くなっているということも珍しくありません。
新しいクラウドサービスやセキュリティ技術など、常に最新の情報をキャッチアップし、学び続ける姿勢がなければ、エンジニアとして生き残っていくことは難しいでしょう。
インフラエンジニアの年収事情
キャリアを考える上で、年収は非常に重要な要素の一つです。
インフラエンジニアの年収は、本人のスキルや経験、担当する業務内容、そして所属する企業の規模などによって大きく変動しますが、一般的には日本の平均年収を上回る水準にあります。
実務経験がまだ浅い20代の若手エンジニアの場合、年収は300万円台から500万円程度が相場となることが多いようです。
この段階では、先輩エンジニアの指導のもとで基本的な運用・保守業務を担当しながら、知識と経験を積んでいく時期です。
経験を積み、一人で設計や構築を任されるようになる30代の中堅クラスになると、年収は500万円から700万円程度まで上昇します。
このレベルになると、プロジェクトのリーダーを任されたり、後輩の指導をしたりする機会も増えてきます。
さらに、特定の分野で高い専門性を身につけたり、プロジェクトマネージャーとしてチームを率いたりする立場になると、年収は700万円を超え、1000万円以上に達することも決して珍しくありません。
特に、クラウド技術やセキュリティ、あるいは大規模システムの設計・構築経験といった、市場で需要の高いスキルを持つエンジニアは、好待遇で迎えられる傾向にあります。
AWSなどのクラウド関連の認定資格を取得することも、自身のスキルを客観的に証明し、年収アップにつなげるための有効な手段の一つです。
インフラエンジニアは、スキルと経験を地道に積み重ねていくことで、着実に収入を上げていくことができる、将来性の高い職種と言えるでしょう。
インフラエンジニアの将来性と今後の展望
「AIに仕事が奪われる」といった話題を耳にすることもありますが、インフラエンジニアの将来性は非常に明るいと言えます。
その理由は、私たちの社会がますますデジタル技術に依存するようになっているからです。
クラウド化の進展による役割の変化
近年、ITインフラの世界で最も大きな変化は、クラウドコンピューティングの急速な普及です。
これにより、インフラエンジニアの仕事内容は大きく変わりつつあります。
従来のように物理的なサーバーやネットワーク機器を直接触る機会は減り、クラウド上で提供されるサービスをいかにうまく活用して、効率的で柔軟なインフラを構築するかが重要になっています。
この変化は、インフラエンジニアという仕事がなくなることを意味するのではなく、むしろその専門性をより高度なレベルへと引き上げるものです。
クラウドを使いこなせるインフラエンジニアの需要は、今後ますます高まっていくでしょう。
自動化技術(IaC)の重要性の高まり
もう一つの大きなトレンドが、インフラ構築の自動化です。
IaC(Infrastructure as Code)という考え方が主流になりつつあり、これは、サーバーやネットワークの設定情報を、アプリケーションのプログラムコードのように記述し、管理する手法です。
これにより、手作業による設定ミスを防ぎ、誰がやっても同じ品質のインフラを、迅速かつ大量に構築することが可能になります。
インフラエンジニアには、こうした自動化ツールを使いこなし、スクリプトを書くプログラミングスキルがこれまで以上に求められるようになります。
単純作業は自動化に任せ、エンジニアはより創造的で、付加価値の高い業務に集中できるようになるのです。
止まらないDXとセキュリティ需要
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れは、今後も加速していくことは間違いありません。
新しいデジタルサービスが次々と生まれる中で、その土台となるITインフラを設計・構築・運用できる専門家の存在は、企業にとって不可欠です。
また、ビジネスのデジタル化が進むにつれて、サイバー攻撃のリスクも増大しており、企業の重要な情報資産を守るセキュリティエンジニアの需要も絶えることはありません。
このように、社会がデジタル化すればするほど、インフラエンジニアの活躍の場は広がり、その重要性は増していくのです。
インフラエンジニアの多様な働き方
インフラエンジニアが活躍する場所は、IT業界だけにとどまりません。
また、働き方の選択肢も広がってきています。
活躍の場
インフラエンジニアの主な勤務先としては、SIer(システムインテグレーター)や、Webサービスを提供している事業会社、あるいは一般企業の社内IT部門などが挙げられます。
SIerでは、様々な顧客企業のシステム構築に携わることができ、幅広い業界の知識や多様な技術に触れる機会があります。
事業会社では、自社サービスのインフラに深く関わり、サービスの成長をダイレクトに支えるやりがいを感じることができます。
社内IT部門では、従業員が使うPCの管理から社内ネットワークの整備まで、会社のビジネス活動そのものを支える重要な役割を担います。
働き方の柔軟性
クラウド化の進展により、インフラエンジニアの働き方も柔軟になってきています。
かつては、データセンターに常駐して物理的な機器を管理する必要がありましたが、現在では、インターネット経由でほとんどの作業が可能なため、リモートワークを導入する企業も増えています。
また、高い専門スキルを身につければ、特定の企業に所属せず、フリーランスとして複数のプロジェクトに携わるという働き方も可能です。
フリーランスは、自分の裁量で仕事を選び、高い収入を得られる可能性がある一方で、常に最新のスキルを学び続け、自ら仕事を開拓していく必要があります。
ライフスタイルに合わせて、多様な働き方を選択できるのも、インフラエンジニアという仕事の魅力の一つです。
インフラエンジニアのキャリアパス
インフラエンジニアとしての経験を積んだ先には、どのようなキャリアの道が拓けているのでしょうか。
目指す方向性によって、様々なキャリアパスを描くことができます。
スペシャリストへの道
一つの技術領域をとことん追求し、誰にも負けない専門家を目指すのがスペシャリストの道です。
例えば、「ネットワークセキュリティなら、あの人に聞けば間違いない」「データベースのパフォーマンスチューニングの第一人者」といったように、特定の分野でトップレベルの技術者になることを目指します。
常に最新技術を追いかけ、深い知識と経験を武器に、困難な技術課題を解決に導く役割です。
ゼネラリスト・フルスタックエンジニアへの道
サーバー、ネットワーク、クラウドといったインフラ領域全般にわたる幅広い知識とスキルを身につけ、一人でシステム全体の設計から構築、運用までこなせるエンジニアを目指す道です。
近年では、アプリケーション開発の知識も併せ持つ「フルスタックエンジニア」としての活躍も期待されています。
幅広い視野を持ち、技術領域の垣根を越えて全体最適を考えられる貴重な存在です。
マネジメントへの道
技術者としての経験を活かし、チームやプロジェクト全体を管理するマネジメント職に進む道もあります。
プロジェクトマネージャーとして、プロジェクトの予算、スケジュール、品質、人員の管理を行い、プロジェクトを成功に導きます。
技術的な知識に加え、リーダーシップや交渉力、調整力といったヒューマンスキルが強く求められます。
ITコンサルタントやアーキテクトへの道
培った豊富な知識と経験を基に、企業の経営課題や事業課題をITの力で解決する、より上流のポジションを目指す道です。
ITコンサルタントは、顧客のビジネスを深く理解し、最適なIT戦略を提案します。
ITアーキテクトは、企業のビジネス戦略全体を踏まえた上で、あるべきITインフラの全体像を設計する役割を担います。
いずれも、高い技術力とビジネス感覚の両方が求められる、やりがいの大きな仕事です。
IT社会の基盤を創るインフラエンジニアという選択
ここまで、インフラエンジニアという仕事について、その役割から将来性、キャリアパスまで幅広く紹介してきました。
華やかなアプリケーションやサービスの裏側で、IT社会の根幹を黙々と支えるインフラエンジニア。
その仕事は、決して目立つものではないかもしれません。
しかし、彼らがいなければ、私たちの生活やビジネスは一日たりとも成り立たない、非常に重要で社会貢献性の高い仕事です。
技術の進化は速く、常に学び続ける姿勢が求められる厳しい世界ではありますが、その分、自身の成長を実感しやすく、スキルを磨けば磨くほど、高い評価と収入を得ることができます。
クラウド化や自動化といった技術の波は、インフラエンジニアの仕事を奪うのではなく、その価値をさらに高める追い風となっています。
もしあなたが、物事の仕組みや土台を考えるのが好きで、社会を根底から支える仕事にやりがいを感じるのであれば、インフラエンジニアというキャリアは、非常に魅力的で、将来性のある選択肢となるでしょう。